目次

心理学研究で卒論を書くためのアカデミック・ライティング


はじめに

この資料について

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執筆の順番

添削依頼の仕方


内容構成

章立て

  • 第1章 序論
    • 第1節 単純接触効果
    • 第2節 閾下単純接触効果
    • 第3節 閾下単純接触効果の測定手法
    • 第4節 目的と仮説
  • 第2章 方法
    • 第1節 実験デザイン(あるいは調査デザイン)
    • 第2節 参加者
    • 第3節 実験環境(あるいは調査環境)
    • 第4節 刺激(刺激を詳説する必要がある場合のみ)
    • 第5節 課題(課題内容を詳説する必要がある場合のみ)
    • 第6節 心理測定尺度(既存の心理測定尺度を使用している場合のみ)
    • 第7節 手続き
    • 第8節 統計分析
    • 第9節 透明性の声明(生成AIを使用した場合など)
  • 第3章 結果(結果が1種類しかない場合は,節で内容を分けずに章に直接書く)
    • 第1節 主観選好スコアの比較
    • 第2節 潜在選好スコアの比較
  • 第4章 考察(節で内容を分けずに,章に直接書いてもよい)
    • 第1節 主観的選好形成と潜在的選好形成における心理機序の差異
    • 第2節 潜在的選好形成の応用可能性
    • 第3節 制限事項
    • 第4節 今後の展望
  • 謝辞
  • 引用文献
  • 付録(付録はできる限り設けない)

アブストラクト

序論

基本となる考え方

順を追って書いてみる

  1. はじめに,アウトライン(骨子とも呼ぶ)を作成し,アウトラインを固めてから本文を書き進めていく。
    • 手間のように感じるかもしれないが,アウトラインの検討をすると全体的な作業は大幅に楽になり,論理的整合性も確保しやすくなる。
  2. 最初のパラグラフで,本テーマに関連する身近な事例を挙げる。
    • 読者がテーマを具体的にイメージでき,かつ興味をもって読み進められるようになる。
    • これは論証ではなくあくまでも例示であるため,論文全体のうちのこのパラグラフのみ主観的となっても構わない。
  3. その次のパラグラフから、先行研究を引用しつつ、問いにつながるように論証する。このとき、引用の継ぎ接ぎをして先行研究を列挙するだけでは,適切な序論とはならない。論述とはストーリーであるため,問いに適切に繋がるようにストーリーを作る必要がある。
  4. 「目的と仮説」の節の1つ前の節の末尾で、問いを示す。それに続けて、その問いを検討することについて、学術的あるいは社会的にどのような意義や新規性があるのかを説明する。
  5. 最後の節で、目的と仮説を述べる。忘れがちだが,仮説にも客観的根拠が必要である。自分の主観的な思いつきで「こうなるのではないか」と仮説を立ててはならず,仮説が導き出される根拠を客観的に示す必要がある。

方法

基本となる考え方

順を追って書いてみる

  1. 「実験デザイン(あるいは調査デザイン)」の節で書くこと。
    • 【実験】独立変数,従属変数,要因,水準,各要因のタイプ(参加者内要因/参加者間要因)。
    • 【差を調べる調査】要因,水準,各要因のタイプ(参加者内要因/参加者間要因)。
    • 【関連を調べる調査】何と何の関連を調べるのか。
  2. 「参加者」の節で書くこと。
    • G*powerなどでサンプルサイズ設計を行った場合は,まずはその設計内容を書く。
    • 実験参加者の属性
    • 人数
    • 性別ごとの人数(男性,女性,その他,分からない,回答したくない)
    • 最低年齢と最高年齢
    • 年齢の平均値(M)と不偏標準偏差(SD)
    • 参加者の募集方法
    • 参加者の除外が生じた場合は,除外基準と除外人数
  3. 「実験環境(あるいは調査環境)」の節で書くこと。
    • 実験調査日
    • 実験調査場所
    • 実験調査に用いた機器のメーカーや型番など
    • 実験調査に用いたソフトウェアのメーカーやバージョン番号
    • その他の実験調査環境について書くべき情報
  4. 「刺激」の節では,実験調査で用いた各種刺激の内容や作成方法などを,可能な限り詳細に記入すること。第三者が全く同じ刺激を用意できるようにすることが重要である。
  5. 「課題」の節では,課題内容をできるだけ詳しく書く。
  6. 「心理測定尺度」の節では,使用した尺度を開発した先行研究を引用しつつ説明する。尺度を用いたことを報告するだけでなく,なぜこの尺度を用いたかを説明できる根拠も示す。英語の尺度が日本語訳されている場合,英語版の尺度作成論文と日本語版の尺度作成論文の両方を引用する。
  7. 「手続き」の節では,どのような手続きで参加者が実験調査を遂行したのかを示す。できるだけ図を用いて視覚的に示すこと。
    • 試行数
    • 呈示順
    • 呈示時間
    • ランダマイズ
    • カウンターバランス,など
  8. 「統計分析」の節では,具体的にどのように統計分析を行うのかを示す。ここで詳説した場合は,結果の章では統計分析の方法論は詳説しない。
  9. 「透明性の声明」の節では,主に生成AIを使用した場合の使用範囲などを書く。

結果

基本となる考え方

順を追って書いてみる

  1. まず最初に,データ加工を行った場合は説明をする。データ加工とは,たとえば以下のような処理のことである。
    • 一部のデータを除外した。(除外理由・除外基準・除外パーセンテージなどを記載する)
    • 複数の数値の平均値を算出した。
    • 数値Aから数値Bを減算した値を数値Cとして用いるなど計算を行った。
    • 逆転項目の処理をした。
    • 複数の自由記述式エピソードを数カテゴリーに分類した。
  2. つづいて,各群の平均値や不偏標準偏差などの記述統計量の報告を行う。
  3. 統計的仮説検定を行った場合はその検定結果を記載する。検定結果の報告は,以下を参考にすること。
  4. 差の有意性や,分散分析における主効果・単純主効果・多重比較結果などを示す際は,効果の方向性も記載すること。単に「有意性が見られた」と書くだけでは,どちらの値が大きい/小さいのかなどの大きさ・長さ・速さの向きがわからないためである。
    • 【間違い】〜〜〜の結果,AとBの間に有意な差がみられた。
    • 【正しい】〜〜〜の結果,AよりもBのほうが有意に大きいことが明らかとなった。

考察

基本となる考え方

順を追って書いてみる

  1. 最初のパラグラフで,本研究の振り返りとして以下の情報を順に再掲する。
    • 序論で示した本研究の目的
    • 実験調査の結果の概要
    • 仮説が支持されたかどうか
    • 本研究の問いに対する結論を簡潔に示す。
  2. 解釈パートを書く。
    • なぜこのような結果がみられたと考えられるか。
    • 先行研究と結果の傾向が一致したかどうか。
    • この結果がどのような心理機序の解明につながるか。
    • 別の解釈はないか。
  3. リミテーションパートを書く。
    • この研究の実験調査デザインでは統制しきれなかった剰余変数の存在を指摘。
    • この研究では検討対象としていないことを説明。
  4. 展望パートと書く。
    • 今後、どんな実験調査をするとよいか。
    • その実験調査をすると、学術的あるいは社会的にどのような意義があるか。

謝辞

引用文献

付録


ライティング

全般的ルール

時制・態

章・節 時制 例文
序論(論証) 現在形 文による 〜ときに知覚処理が促進することが知られている。
序論(目的・仮説) 過去形 能動態 〜ことを目的に実験を実施した。
方法 過去形 受動態 50枚の顔刺激が作成された。
結果 過去形 文による 〜を分析したところ,有意な差がみられた。
考察(振り返り) 過去形 文による 〜の傾向がみられたことから,仮説が支持された。
考察(解釈以降) 現在形 文による 〜〜が影響していると考えられる。

語句用法

順接など 並列など 順序など 逆説など 例示・補足など
したがって, そして, はじめに, しかし, たとえば,
そのため, また, まず, 一方で, 例として,
よって, さらに, つぎに, それにもかかわらず, 具体的には,
そこで, くわえて, つづいて, ただし, とくに,
これらのことから, なお, その後, その中でも,
あるいは, 第1に, すなわち,
もしくは,
〜等の ⇒ 〜などの 〜毎に ⇒ 〜ごとに 例えば ⇒ たとえば
〜する事は ⇒ 〜することは 〜と言う ⇒ 〜という 従って ⇒ したがって
〜の時に ⇒ 〜のときに 〜の度に ⇒ 〜のたびに 特に ⇒ とくに
〜をした所 ⇒ 〜をしたところ 〜出来る ⇒ 〜できる その他に ⇒ そのほかに
〜の内の ⇒ 〜のうちの 〜で良いが ⇒ 〜でよいが 全て ⇒ すべて
〜が分かる ⇒ 〜がわかる 〜の通り ⇒ 〜のとおり 有り無し ⇒ ありなし
語尾表現
序論(論証) 知られている。報告されている。明らかとなっている。示されている。指摘されている。示唆されている。挙げられる。用いられている。主張されている。みられる。扱う。
序論(目的) 検討した。明らかにした。行った。調べた。目的とした。
方法系 呈示された。行われた。調査された。検討された。取得された。比較された。用いられた。測定された。
結果系 行った。明らかとなった。見られた。示された。であった。確認された。
考察系 考えられる。可能性がある。示唆される。見られる。必要である。主張できる。推測される。
使ってはいけない 〜〜〜〜〜の法則。なのだろうか。なのか。だ。と思う。と考える。と感じる。がわかる。といえる。かもしれない。をみていく。らしい。したい。だろう。のようである。

一文一義

パラグラフライティング

間違い例

先行研究によれば,睡眠時間が短いと注意力や判断力が低下し,タスク遂行に要する時間が延びる。一方,適切な睡眠を取った群では記憶の定着率が約20%向上したという報告もある。これらのことから,十分な睡眠は作業効率を向上させることが明らかである。

正しい例

十分な睡眠は作業効率を向上させる。先行研究によれば,睡眠時間が短いと注意力や判断力が低下し,タスク遂行に要する時間が延びる。一方,適切な睡眠を取った群では記憶の定着率が約20%向上したという報告もある。

引用

直接引用と間接引用

文中引用の表記方法

  • 1人の場合
    • ~~~~~~である(Atkinson, 2020)。
    • ~~~~~~である(杉本, 2020)。
    • Atkinson(2020)は、〜〜〜〜〜〜。
    • 杉本(2020)は、〜〜〜〜〜〜。
  • 2人の場合(英語文献は著者名を半角「&」で連結、日本語文献は著者名を全角「・」で連結)
    • ~~~~~~である(Atkinson & Shiffrin, 2020)。
    • ~~~~~~である(杉本・高田,2020)。
    • Atkinson & Shiffrin(2020)は,~~~~~~。
    • 杉本・高田(2020)は,~~~~~~。
  • 3人以上の場合(英語文献は第1著者の後に「et al.」を付与、日本語文献は第1著者の後に「他」を付与)
    • ~~~~~~である(Atkinson et al., 2020)。
    • ~~~~~~である(杉本他,2020)。
    • Atkinson et al.(2020)は,~~~~~~。
    • 杉本他(2020)は,~~~~~~。

図表

図と表の共通ルール

図のルール

表のルール

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